樹木は素敵なアーティスト。落ち葉と戯れるちょっと心地よい一日。 ウィーン旅行記、初めての野菜づくりの体験記も。コメントお待ちしてます!  
ブルックナーの眠る場所6(完)ブナの大木の庭で
2007年01月04日 (木) | 編集 |
ブルックナーオルガンによる演奏会の感動の余韻醒めぬまま、
僕は礼拝堂を後にした。
小雨と強風が吹き荒れ、もう辺りは薄暗くなりつつある。

(c)masayoshi ishii


修道院の正門から出て帰途に着こうと思ったが、
何だか名残惜しくて、少し寄り道をすることに。
ぶらぶらしていると、正門の横には小さな庭に通じる入り口があった。

その庭を訪れると、中央には小さな池。
小雨に揺れる水面には、落ち葉たちとモノクロームな風景。
もう冬だ。

(c)masayoshi ishii
(クリック・拡大してご覧ください)

庭の隅には、一本のブナの大木。
樹冠の下には、古いベンチ。
そこからは、小さな街を見渡すことができる。

(c)masayoshi ishii


一生独身で、おじいさんになっても若い女性ばかりに恋し、追いかけてばかりいたブルックナー。
ひょっとしたらその恋破れた時に、このブナの木の下のベンチに座って物思いに耽っていたのかも・・・
なんて想像してしまった。
十分ありえる話だと思うが・・・(当時このベンチがあればの話ですが)

その近くにはリンゴの木。
夕闇迫る薄暗い風景の中で、地面に落ちたリンゴの実は、
小雨に濡れて、いっそう艶かしさを増していた。
リンゴと並んでカエデの落ち葉。

(c)masayoshi ishii


このブルックナーも物思いに耽りながら歩いたであろう小さな庭が、
旅の最後の「落ち葉拾い」の場所ともなりました。

このブログで公開した写真だけではく、
旅の中で何百枚と収集・撮影した落ち葉の写真を、
いつかどこかで皆さんに観ていただくために、
現在制作作業をすすめています。

それらを、いずれ皆様にお披露目できることを願って・・・完。

撮影データ
ザンクト・フローリアン修道院 リンツ オーストリア

2006.11.5
photo&text:masayoshi ishii
Camera:Canon EOS5D



テーマ:クラシック
ジャンル:音楽
ブルックナーの眠る場所vol.5 生を肯定するもの
2007年01月02日 (火) | 編集 |
僕はその親切で可愛らしい老婦人と別れたあと、
しばらく薄暗い礼拝堂の長椅子の最後列に座り、
半ば瞑想状態でぼぉっとしていた。

どうせバスは2時間に1本しか無いし、
ブルックナーとお別れするのも寂しいし・・・
バスの時間までここに留まることに。


しばらくして、観光ツアーの団体らしき人々が10人程、静かに礼拝堂に入ってきた。
彼らはしばらくガイドから説明を聞いていたのだが、突然、パチパチと拍手を始めた。
何事かと思ったら、一人の神父さんが、ブルックナーオルガンに向かってツカツカと歩いて行く・・・

ブルックナーオルガンのショートコンサートが始まったのだ!!

何という幸運。(お金も払っていないのに!!)
あのおばあさんと会わなければ、とっくの昔に引き上げていただろうに・・・
ツアー客のための演奏会なのに、僕や他の見学者たちに出て行けというそぶりは全然ない。
その辺のおおらかさには感心してしまう。

オルガンの音が鳴り響くと同時に、目頭が熱くなってしまった・・・感無量。

あのおばあさんが身振り手振りで教えてくれた通り、
オルガンは次第に祭壇の左右のパイプからも響き始め、
礼拝堂全体が美しい音楽に包まれたのであった。

(c)masayoshi ishii



本当に天から音楽が舞い降りてくるようだ。


時に優しく語りかけるような低音、時に目を覚ませとばかりの刺激的な中高音
これはブルックナーの交響曲の響きそのものではないか・・・

このオルガンがあったから、あのブルックナーの交響曲の響きがあるのかもしれない。

20分程の組曲の最終章、
曲はフォルテッシモの長い和音で締めくくられた。
しばらく美しい残響が響き渡り、再び静寂が訪れる。

終わると同時に、気付いた。

   『ここにある全てのものは、生を肯定している。』

包むような礼拝堂の大空間、たくさんの美しい彫像と壁画、そしてブルックナーオルガンから奏でられる荘厳な音楽・・・
それらのすべては生を肯定し、祝福するために存在するのだ。

そして、僕も

   『生を肯定する何かが欲しい』

と、強く思った。

ブルックナーオルガンの響きが消え、静寂が訪れると同時に、
その想いが全身を駆け巡った。

   『日本に帰ったら、探さなきゃ・・・』



僕は無宗教の国の人間。
まだ宗教の生きているこの国の人々と違って、
日本では『生を肯定する何か』は、始めからは用意はされていないのだ。
個々が生きて行く中で、一人一人が見つけて行かなければならないのだ。
だから、その答えは一人一人違う。
一人一人で答えを見いだし、それを維持していくのは大変なことだ。
そんな共通した「生を肯定する何か」を僕らは持たないから、
個々が築き上げた価値観は孤独なままで、
心の病に苦しむ人も増える一方だし、
いじめ問題だって、表面的な議論で終わってしまうんじゃないか...

それにひきかえ、
日本と比べると、まるでこの国は国民全体がファミリーのようではないか。

曲が終わると、礼拝に立ち寄ったのであろう、後ろの方で聞いていた老紳士が、
ひざまづいて目を閉じて十字を切ってから、帰っていった。
そのさりげなく、邪心のない純朴なふるまいには、何か美しささえ感じた。

つづく
   _____________________


訪問日:2006.11.5
St.Florian Linz Austria
photo&text masayoshi ishii
camera:Canon EOS5D TS-E24mmF3.5L



テーマ:クラシック
ジャンル:音楽
ブルックナーの眠る場所vol.4 ブルックナーオルガンの響き
2006年12月26日 (火) | 編集 |
僕は、可愛らしい老婦人によって礼拝堂の中に導かれた。

礼拝堂の天井を見上げた。その美しさといったら・・・
淡い優しい色彩の天井画、白や金色に輝く彫像たち。

(c)masayoshi ishii


おばあさんの指差す方向に振り向くと、そこには大きく美しく、堂々としたブルックナーオルガンが・・・
それらの全ては薄明るい自然光に包まれて、生き生きと輝いて見えた。

(c)masayoshi ishii


「わぁ・・・」
僕は、もう子供のようにただただ感嘆の声を上げ、それらを仰いだ。

おばあさんは、オルガンのパイプは、席の後ろの大きなものだけでなく、祭壇のすぐ左右の高いところにもあり、その3カ所から出る音で、礼拝堂全体が反響するのだと説明してくれた。(言葉がわからないのに、不思議と内容が分かった)

おばあさんは、低音用の巨大なパイプを指差し、
「ヴォーーーッ、ウ゛ォーーーーッ」その音を口で再現しようとする。
細い体にか細い声で「ウ゛ォ−−−ッ」と、一生懸命低い声を出す。
でも全然低くないのが、とっても可愛いのであった。

今度はおばあさんは、天井に向かって、
「ホーーッ、ホーーッ」と声を響かせる。
とてもよく響くことを僕に教えてくれているのだ。
その声の優しくふくよかな残響が、礼拝堂全体を包んだ。
僕は嬉しくて思わず笑った。その笑い声も優しく響いた。

おばあさんは、笑顔で自分の太ももをさすりながら「今日はとっても寒いから気をつけて!」というようなことをいい、
「アウフ ヴィーダーシェーエン(さようなら)」
と何度も言いながら、そして何度も振り向きながら、帰って行った。

ドイツ語のできない僕は
「親切にありがとう。とっても助かりました。」
「おばあちゃんも、体に気をつけてね。元気でね!」
などと、いろいろ感謝の言葉を伝えたかったのに、ただただ
「ダンケシェーン!ダンケシェーン!(ありがとう)」
と、一生懸命繰り返すことしか出来なかった。

もっと感謝を伝えたかったのに・・・
  言葉の出来ない悔しさと、お婆さんに対する申し訳なさが残った。

つづく

写真1:祭壇の左右にもオルガンのパイプがあり、奏でられる音楽は立体的に礼拝堂を包み込む。
写真2;ブルックナーオルガン。この真下の床下にブルックナーが眠っている。

次はブルックナーオルガンのショートコンサート体験記です!

2006.11.5 St.Florian Linz Austria
Canon EOS5D
TS-E24mmF3.5






テーマ:クラシック
ジャンル:音楽
ブルックナーの眠る場所 ザンクト・フローリアン修道院3
2006年12月18日 (月) | 編集 |
嵐のような強い風と冷たい雨にさらされながら、
僕は礼拝堂の扉の前にたどり着いた。
厚く、重く、大きな扉をゆっくり押し、開けた。

そこは人工照明が一切消された、薄暗い空間。
天窓からは弱々しくも柔らかく優しい自然光が降り注いでいる。

入ったところは、礼拝堂の席のさらに後ろの場所。祭壇とは反対の身廊(中央の廊下)の突き当たりだ。
そこは礼拝堂の吹き抜けの空間とは柵で仕切られていて、それより中には入れない。

暗闇に慣れない眼を凝らして柵の向こう側を眺めると、
そこには柔らかい光に包まれた、荘厳な祭壇があった。

(c)masayoshi ishii



その祭壇からまっすぐ伸びた身廊の、柵のこちら側の突き当たりの床には、
人の背丈程の長方形の石のプレートが埋め込まれていて、
そこには「ANTON BRUCKNER (アントン・ブルックナー)」の名が刻まれていた。

ああ、やっと会えた・・・

この石のプレートの下には小部屋があって、ブルックナーの棺が納められているのだ。

僕は自然とひざまずき、彼の名の刻まれたプレートに手を当て、しばらく眼を閉じた。
拝んだり黙祷したりという柄ではないが、
この場所の記憶を少しでも心に刻んでおきたかったのだ。
誰もいない教会。しんと静まり返っている。
不思議なのが、その石の床を「冷たい」と感じた記憶が、今思い返しても無いことだ。

そうしていると、背中に人の気配が・・・。

振り返ると、そこにはロングコートにスカーフを巻いた、
身なりの清楚で品の良い、小柄なおばあさんがいつの間にか立っていた。

「グリュース・ゴット(こんにちは)」笑顔で挨拶を交わす。

僕は立ち上がり、わずかに知っているドイツ語のフレーズを使って、
「イッヒ リーベ ブルックナー(私はブルックナーを愛してます)」と一言。

この一言が、僕がドイツ語を話せると思い込ませてしまったらしい!
それからおばあさんは、止まること無くしゃべり出したのであった。

僕が「I can not speak German!!」と言っても、通じない。

でも全く言葉は分からないのに、ジェスチャや指す指の方向で、
何について話しているのか、何となく分かる。
おばあさんは、この教会について解説してくれているのだ。

それからおばあさんは、「礼拝堂の中に入って見てみなさい」というようなことを言い、手招きをする。それについてゆくと、礼拝堂と僕のいた場所を隔てていた柵には一カ所だけ扉があって、そこから礼拝堂の中の大空間に入ることが出来るようになっているのであった。

このおばあさんに会わなければ、柵の中に入らずに帰ってしまうところだった...幸運。

僕はその小柄で可愛らしいおばあさんと並んで、礼拝堂の身廊(中央の廊下)を歩いた。
おばあさんはしゃべりつづける。

つづく・・・

(次はブルックナーオルガンの写真UPします)

撮影日:2006.11.5
オーストリア リンツ ザンクト・フローリアン修道院
St.Florian Linz Austria

CANON EOS5D
EF50mmF1.4




テーマ:クラシック
ジャンル:音楽
ブルックナーの眠る場所、ザンクト・フローリアン修道院2
2006年12月13日 (水) | 編集 |
ザンクト・フローリアン修道院を歩く。
自分の人生を支えてくれているブルックナーがここにいる・・・
一週間前、ウィーン学友協会にてニコラウス・アーノンクールの指揮する交響曲第5番の熱演を聴いた感動が蘇り、胸は高鳴る。

ブルックナーは、このザンクト・フローリアン修道院の教会のパイプオルガンの奏者を勤めていた。
彼の死後、遺言に従ってこのパイプオルガンの下に彼は埋葬されたのだ。
そのオルガンはヨーロッパでも最大級の大きさに入る立派なもので、
現在は『ブルックナーオルガン』と呼ばれている。

僕はしかし、実はかなり落ち込んでもいた。
ガイドブックで下調べをした情報では、建物内部の見学はツアーに申し込まなければならないのだが、それが10月いっぱいで終わりだとのこと。
訪問したのは11月5日。せっかくブルックナーに会いにきたのに、彼の眠っている教会の礼拝堂に入れないかもしれない、ブルックナーオルガンも観れないかもしれない・・・

修道院の中庭を歩く。建物は装飾の控えた清楚な印象で、禁欲的な雰囲気さえする。

(c)masayoshi ishii


その中庭の片隅に、鋳物(?)のレリーフを施した柵があって、何かが囲われている。
網も張ってあって厳重に守られている。
歴史的に価値のあるものなのであろう。
その中は暗く、何が納められているのか結局分からなかったが、
この修道院にとってとても重要であるものに違いなかった。
柵のレリーフは何をあらわしているのだろう?
(どなたか分かる方がおりましたら教えてください)

(c)masayoshi ishii


ブルックナーの墓標の前に立てなくても、
せめて少しでも長くここに留まりたいと思った。

お土産屋を兼ねた案内所があった。
一か八か、その案内所の紳士に聞いてみることにした。

(以下英語)
僕「今日、ブルックナーオルガンを観ることが出来ますか??」

すると、
紳士「ああ。できますよ。この廊下をまっすぐ行ったところのドアを開ければ、そこがブルックナーオルガンのあるところですよ。」

僕「今日観れるんですか?!」

紳士「ああ、だいじょうぶですよ。行ってご覧なさい。」

僕「ありがとう!!」

紳士は終始穏やかに、親切に応えてくれた。

沈んでいた気持ちは一気に逆転上昇した。
ブルックナーに会える!!

***次回は教会礼拝堂の内部、ブルックナーオルガンの写真をアップしま〜す***

photo:M.Ishii
date:2006.11.5 St.Florian Linz Austria
Canon EOS5D
EF50mmF1.4
EF35mmF2



テーマ:クラシック
ジャンル:音楽