樹木は素敵なアーティスト。落ち葉と戯れるちょっと心地よい一日。 ウィーン旅行記、初めての野菜づくりの体験記も。コメントお待ちしてます!  
ブルックナーの眠る場所vol.5 生を肯定するもの
2007年01月02日 (火) | 編集 |
僕はその親切で可愛らしい老婦人と別れたあと、
しばらく薄暗い礼拝堂の長椅子の最後列に座り、
半ば瞑想状態でぼぉっとしていた。

どうせバスは2時間に1本しか無いし、
ブルックナーとお別れするのも寂しいし・・・
バスの時間までここに留まることに。


しばらくして、観光ツアーの団体らしき人々が10人程、静かに礼拝堂に入ってきた。
彼らはしばらくガイドから説明を聞いていたのだが、突然、パチパチと拍手を始めた。
何事かと思ったら、一人の神父さんが、ブルックナーオルガンに向かってツカツカと歩いて行く・・・

ブルックナーオルガンのショートコンサートが始まったのだ!!

何という幸運。(お金も払っていないのに!!)
あのおばあさんと会わなければ、とっくの昔に引き上げていただろうに・・・
ツアー客のための演奏会なのに、僕や他の見学者たちに出て行けというそぶりは全然ない。
その辺のおおらかさには感心してしまう。

オルガンの音が鳴り響くと同時に、目頭が熱くなってしまった・・・感無量。

あのおばあさんが身振り手振りで教えてくれた通り、
オルガンは次第に祭壇の左右のパイプからも響き始め、
礼拝堂全体が美しい音楽に包まれたのであった。

(c)masayoshi ishii



本当に天から音楽が舞い降りてくるようだ。


時に優しく語りかけるような低音、時に目を覚ませとばかりの刺激的な中高音
これはブルックナーの交響曲の響きそのものではないか・・・

このオルガンがあったから、あのブルックナーの交響曲の響きがあるのかもしれない。

20分程の組曲の最終章、
曲はフォルテッシモの長い和音で締めくくられた。
しばらく美しい残響が響き渡り、再び静寂が訪れる。

終わると同時に、気付いた。

   『ここにある全てのものは、生を肯定している。』

包むような礼拝堂の大空間、たくさんの美しい彫像と壁画、そしてブルックナーオルガンから奏でられる荘厳な音楽・・・
それらのすべては生を肯定し、祝福するために存在するのだ。

そして、僕も

   『生を肯定する何かが欲しい』

と、強く思った。

ブルックナーオルガンの響きが消え、静寂が訪れると同時に、
その想いが全身を駆け巡った。

   『日本に帰ったら、探さなきゃ・・・』



僕は無宗教の国の人間。
まだ宗教の生きているこの国の人々と違って、
日本では『生を肯定する何か』は、始めからは用意はされていないのだ。
個々が生きて行く中で、一人一人が見つけて行かなければならないのだ。
だから、その答えは一人一人違う。
一人一人で答えを見いだし、それを維持していくのは大変なことだ。
そんな共通した「生を肯定する何か」を僕らは持たないから、
個々が築き上げた価値観は孤独なままで、
心の病に苦しむ人も増える一方だし、
いじめ問題だって、表面的な議論で終わってしまうんじゃないか...

それにひきかえ、
日本と比べると、まるでこの国は国民全体がファミリーのようではないか。

曲が終わると、礼拝に立ち寄ったのであろう、後ろの方で聞いていた老紳士が、
ひざまづいて目を閉じて十字を切ってから、帰っていった。
そのさりげなく、邪心のない純朴なふるまいには、何か美しささえ感じた。

つづく
   _____________________


訪問日:2006.11.5
St.Florian Linz Austria
photo&text masayoshi ishii
camera:Canon EOS5D TS-E24mmF3.5L



テーマ:クラシック
ジャンル:音楽
コメント
この記事へのコメント
神父さんが弾くのですね。
これまた思わぬ幸運ですね(*^−^*)
きっとツアーですから、あらかじめ頼んでおいていたのでしょうけれど、そんな場面にはめったにお会いできないと思います。

旅をする者には、必ず天の使いがついていらっしゃるそうですが、はっぱさんには良い天使が付き添っていただけたのでしょう。
素直が心が良いものを呼ぶのですね☆
2006/12/29(Fri) 12:59 | URL  | 傀熙瑚(Keiko) #-[ 編集]
ありがとうございます。
実際の響きをお聞かせできないのが残念なぐらいです。
決してCDなどでは再現できないものです。

天の使いの働きかけ・・・そうなんです。ほんとにこのときは、そう思ってしまいました。
2006/12/31(Sun) 03:19 | URL  | happa #-[ 編集]
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